陽気なピエロのコインロッカー

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池井戸潤『シャイロックの子供たち』文藝春秋<28>

シャイロックの子供たち

シャイロックの子供たち

井戸田潤、じゃなかった池井戸潤、初挑戦。
初めて読む作家だけにこの作品が著書の中でどういう位置を占めるのかはわからないけれど、この作品は意欲作だと思う。
都内一流銀行の支店内で行員それぞれの視点で描かれる連作短編集、というだけでは全くこの作品の魅力は伝わらない。最初の1、2編は、高卒であることに劣等感を抱き貪欲な出世欲の塊である副支店長、あることがきっかけでエリートコースから外れてしまいなんとか戻ろうと必死な男、それぞれの悲哀が描かれいる。一見、銀行を舞台にした普通小説の連作だ。ところが、続けて読んでいくと様子がおかしくなってくる。それぞれの短編がなんとなく未消化のまま進んでいくのだ。これが怖い。いわゆる「支店のエース」である人物の視点にたった第9話を読むときはものすごくドキドキした。
そして最終話である第10話。まさに「こう来るとは!」という結末。筆者の力量を感じることができる連作集だった。