陽気なピエロのコインロッカー

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絲山秋子『逃亡くそたわけ』中央公論新社<29>

逃亡くそたわけ

逃亡くそたわけ

精神病院から脱走記、と書いてしまえばそれまでだがそこは絲山秋子。読ませる読ませる。
違う著者が標準語で同じ物語を書いたら、とてもじゃないがこんなに面白くは書けないだろう。
幻聴が聴こえる。「亜麻布二十エレは上衣一着に値する。亜麻布二十エレは上衣一着に値する。」そこから逃げようとする主人公。ともすれば悲壮感漂う物語になってしまいがちで、この物語にもそういった側面もあるにはあるのだけど、とことん前向きなところがいい(とはいえ逆にそういう前向きすぎるところが悲壮的になってしまうところもあるけれど)。
また、どの作品でもそうだけど、この作品も主人公の女子大生と一緒に逃亡する「なごやん」との距離感が絶妙にいい。