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絲山秋子『袋小路の男』講談社<22>

袋小路の男

袋小路の男

第30回川端康成文学賞受賞作の表題作とその続編「小田切孝の言い分」に「アーリオ オーリオ」の3篇を収録。
余談だけど、「袋小路の男」が川端賞を受賞したときちょっとした話題になった。「芥川賞を受賞していない(当時)作家が川端賞を受賞した」と。もちろん、過去の川端賞受賞作家の中には芥川賞を受賞していない作家が何人かいる。しかし、それらの作家はもう芥川賞の対象にはならない、つまり既に文壇においてその地位が確立されているベテラン作家ばかりである。つまり、川端賞はいわば、「大御所に与えられる賞」というイメージがあったのだ。それをまだ前年にデビューしたばかりの作家が獲った。
これは作品そのものの評価はもちろんのこと、絲山秋子の才筆を窺い知ることのできる逸話だと思う。

余談が長くなったが、『袋小路の男』である。
やっぱりすごい、の一言だ。「袋小路の男」を単体作品として<現代の純愛小説>(帯より)と評するのはちょっと異論があるのだけれど(個人的には異常愛小説と呼びたひ)、川端賞を受賞して評価の高いこの作品に、その続編で違う角度、違う視線を当てているところが興味深い。というかすごさを感じた。一歩間違えば「袋小路の男」の評価を下げかねない冒険といえなくもないが、賞の評価がなんじゃい、という絲山秋子の心意気みたいなものを感じた。今さら言うまでもないが「袋小路の男」も「小田切孝の言い分」も傑作である。
さらにいえば、「アーリオ オーリオ」も傑作なんである。大好きな作品だ。いやはや、手がつけらんないね。